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2016/03/12 Blog 祖父母からの贈りもの ー江戸時代の箪笥ー

今からさかのぼること、数百年前の江戸時代後期から

歴代の祖母たちが花嫁道具として使ってきた総桐箪笥。

 

祖父母から譲り受け、約1年半による箪笥の修復作業を経て

この度、シンガポールの自宅に無事に運ばれてきました。

 

譲り受けた数年前は、金具はさび、木の部分も朽ち果てていました。

それでも長年大事に受け継いできた箪笥だと聞いて、

昔の箪笥の事を調べたり、日本の職人さん探しをすることから始め

修復することにしました。

 

数か月、打ち合わせを重ね、

山形県の金具・箪笥職人さん、岩手県の漆塗り職人さんなど

日本の伝統工芸の匠の技術を持つ東北の職人さんたちに出会うことができ

このほど無事に修復頂くことができました。

 

新しい素材はまったく取り入れず、

木材も金具も、くぎのひとつひとつも昔のまま。

 

この箪笥は観音箪笥と呼ばれ、

江戸時代から明治時代初期に、昔の東京や関東周辺で作られていた総桐箪笥ということです。

 

昨年亡くなる前に祖父から聞いた話では、昔は女の子が産まれると

自宅の庭に桐の苗木を植え、婚礼の適齢期になると大木になるので

総桐箪笥と着物用の履物を作ってもらい、婚礼時に持たせる習慣があったということでした。

 

苗木を育て見守るところから、娘とともに成長した桐の木を

箪笥や履物に仕立てて、一緒に送り出すまで

家族の思いや愛情が長きにわたって込められていると感じます。

観音扉についた家紋が入った金具には

嫁ぎ先でも家族の事を時より思い出すよすがにできるようにという

親心を込めたということでした。

 

着物を入れる引き出しのほか、からくり箱と言う、隠された引き出しがあったり

順番に鍵を開けていかないと、引き出しが開かないという、当時の職人の粋な仕掛けもあります。

 

米沢箪笥や仙台箪笥のように蝶や牡丹を表現した優雅な金具は一切なく

嫁入り道具であるのに男性的で勇ましい印象です。

 

徳川家光時代に日光東照宮建設のために全国から呼び寄せられた宮大工や装飾職人達が

建設が終わる頃に江戸や関東近郊に移り住み、桐箪笥職人として手掛けた当時の特徴との事です。

 

箪笥表面の輝く艶の漆黒は、今回の修復で一番時間を要したところで

漆と日本の四季の関係、段階に分かれた塗り工程は大変興味深いものでした。

 

昔から日本の文化の根底を支え、生活とともにあった漆。

 

岩手県で熟練の漆掻き職人が採取した漆を精製した岩手産漆。

現在、漆掻き職人は20数名ほどだそうで、

国産漆は日本国内年間利用量のうちのわずか1%でしかないのだそうです。

 

箪笥の修復に利用させて頂くことで、
日本の漆文化の素晴らしさを次世代や海外の人たちに話せていけたらと思います。
 
今は無事に到着した箪笥を眺め、日本の伝統工芸のこと、
東北の職人さんたちのこと、そして、東北のこと。
 
現代に生きる私が受け継ぐことができたことに

いろいろな思いを馳せています。

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